【 生産性の向上の理由について 】
景気が良くなる時期には、生産性が向上しているのが普通です。これはどう解釈するべきでしょうか?
「生産性が向上したから、景気が回復した」と見る人もいます。日本のバブル期や、米国の1990年代を説明するときなどに。しかし、いずれの好況もやがてはつぶれてしまったことで、この見解が誤りだったことは明らかになりました。 (生産性の向上が好況の原因なら、景気が急速に悪化することはないはずです。あらゆる企業がいっせいに急激に低能率になるという偶然はありえないからです。)
統計を見ると、好況期では、数年程度の期間で見れば「生産性が向上している」と言えますが、数十年程度の期間で見れば「生産性が向上している」とは言えないものです。たとえば、1990年代の米国の好況がそうです。1990年を基準にすれば、生産性の向上の幅は大きいのですが、1960年代を基準にすれば、生産性の向上の幅は大きくありません。生産性の向上は、あくまで中期的なものに過ぎません。
ではなぜ、景気回復期には、生産性が向上するのか? 実は、「生産性が向上したから、景気が回復した」のではなく、逆に、「景気が回復したから、生産性が向上した」のです。なぜなら、景気が回復すると、さまざまな所得増大効果が出るので、それが産出額の増大という統計的な結果を生み出すからです。
(たとえば、伝統的な靴職人は、昔も今も1日1足しか生産していないとします。ここで、急に好況になり、靴の値段が1割アップすると、彼の所得は(原価を引いて)2割ぐらいアップします。物価は1割アップなのに、所得は2割アップですから、彼の生産性は1割アップしたことになります。そのあとバブルが破裂すると、元の値段になるので、生産性は元の水準まで下がります。このように、景気に応じて、生産性が勝手に上がったり下がったりします。── 彼自身の生産は、何も変わっていないのに。)
(一般的な企業では、好況のときは設備の稼働率が上がり、遊休設備の無駄がなくなるので、生産性は向上します。たとえ古い設備を使うとしても、です。 → 理由はこの HTML 文書のソースに。)
(逆に言えば、「当面は不況を我慢しよう」という経済政策は、日本を不況にしておくことで、生産性を著しく低下させていることになります。企業には、遊休設備や遊休人員などの、巨大な無駄が発生しているからです。)
( ※ さて、1990年代の米国の好況の原因は、本当は何か? 証券市場に個人資金が大幅に流入したことです。急速に株価が上がり、個人資産が名目上は急速に増大しました。個人が株を売れば、この株価上昇は消えてしまうので、これはもちろんバブルです。 → 「ニュースと感想」 10月07日 )
( ※ 参考情報 : 「This is 読売」1997年12月所収、クルーグマン「ニューエコノミーは幻想だ」。ただし上記の話は、クルーグマンとは直接の関係はない。)
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